下顎臼歯部少数歯欠損症例

下顎臼歯部少数歯欠損インプラント症例解説

下顎臼歯部少数歯欠損におけるインプラント治療の注意点や特徴をDr.新谷悟が解説します。

診断時において
  • 歯があったときの中心(根分岐部)ではなく、やや近心根寄りに入れると理想的な位置に来ることが多いので、十分にシミュレーションすること
  • 頬側の骨と舌側の骨の高さが異なる症例が多いが、すぐGBRなどの骨造成で対応しようと考えるのではなく骨レベルの低い頬側の骨が十分にある位置まで深く埋入したほうが予知性は高い
  • 可動粘膜が入り込む形で歯槽堤の固有粘膜に入り込んでくる場合があるので、切開の必要性も診断しておく(患者さんに伝えておく)
  • 多くの場合に第2大臼歯が必要かどうかを見極める。などに、注意する
手術時において
  • 予後につながる可動歯肉の状態と、インプラント周囲の固有歯肉の幅の確保を考え必要であれば切開、粘膜骨膜弁を作成する
  • 開口量に気を使い、サイドエントリーなども踏まえて患者さんの負担にならないようにする
  • 頬側の骨レベルを見誤らないように術中インプラント埋入後、インプラント周囲の骨レベルを短針などで十分に確認する

こういった点を留意したい。

目次
下顎臼歯部少数歯欠損インプラント症例
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症例ケース03 (2017.11.10 - Data up)
右側下顎第1大臼歯、根尖性歯周病により保存不可と診断、抜歯後2か月での待機埋入症例
(30歳代 女性)
STEP.01

右側第1大臼歯(#46)の動揺と排膿を認め,疲れると同部に有痛性の腫脹を生じるとのことであった。その時には、痛みで十分に咀嚼ができず。食事が苦痛とのことで、何回も繰り返しているために抜歯を希望していた。

保存不可能と診断し、抜歯を行い約2か月でCTと口腔内の模型を採得し、インプラント埋入を行い。埋入後2か月で上部構造を装着しインプラント治療とした。なんでもよく噛めるとおっしゃられていた。

STEP.02

LANDmarker(iCAT)の画像。補綴主導を考え埋入位置を計画。3D画像では、抜歯窩が骨が回復していないかまだ幼弱な状況のようにみえる。

STEP.03

LANDmarker(iCAT)による埋入シミュレーション画像。右側第1大臼歯部(#46)。
3Dでは骨欠損のように診えていたが、骨質診断(参考値)を行うと、幼弱な骨ができていることが窺われた。

STEP.04

iCATから送られてくるドリルプロトコル。手順に沿って進めていく。

STEP.05

Landmark Guide(iCAT)の的心ガイドを装着した所見、ガイドを安定させるために第2大臼歯のガイドに対する適合も確認する。
FINESIA Bone Level HA Tapered type(京セラ) 直径4.7/長さ10mm(右側下顎第1大臼歯:#46)を埋入する計画とした。

STEP.06

サーキュレーションメスは的心ガイドにドリルキーを入れ、直径3.7で行った。このことにより可動粘膜までの固有歯肉の幅が確保できる。

固有歯肉のインプラント埋入部位に粘膜の開窓を行っている。歯肉粘膜が丸く骨まで切開されている。可動粘膜までの固有歯肉の幅が確保できている。

STEP.07

サーキュレーションメスによって、切開された歯肉を鋭匙を用いて、除去し、骨面を露出させている。出血はほとんどない。

STEP.08

的心ガイド(iCAT)を用い、的心パイロットドリル step1 直径3.7mm用(京セラ)でドリリングを行う。

直径3.7mmの的心パイロットドリル(京セラ)でドリリングした後、的心ガイドドリル 直径4.7mm用 ショート(京セラ)でドリリングを行っている。位置や角度はガイドによって規制されるため、事故などは起こらない。

STEP.09

的心ガイドドリル 直径4.7mm用 ロング(京セラ)で最終深度までのドリリングをおこなう。ストッパーリング(↓)で深度の調整を行っている。

STEP.10

#46部にインプラント埋入窩形成後、インプラントの埋入を行っている。
インプラントタイプ及びサイズ:FINESIA HA Tapered type 直径4.7mm/長さ10mm

インプラント体がガイドに誘導されながら適切な位置・方向で埋入されているのがわかる。ストッパーまで確実に入れることで計画通りの埋入深度を得ることができる。

STEP.11

インプラント体埋入後、ヒーリングアバットメントを装着する。インプラント体埋入トルクは、30N/cmであった。

右側下顎第1大臼歯部に埋入を行い、ヒーリングアバットメントを付けた口腔内所見。出血などはほとんどない。

手術内容:#46,インプラント埋入術
埋入トルク:30N/cm
麻酔:静脈鎮静・モニター下
局所麻酔:2%キシロカイン(1/80,000Epi) 3.6ml
手術時間:8分
STEP.12

上部構造装着時の確認Dental X-P。予定された部位に埋入されている。

STEP.13

最終補綴物装着時の口腔内所見。

治療後、食事時によく噛めるようになったと喜んでいただけた。

STEP.14

最終補綴物装着時の口腔内所見。

機能面も十分に回復でき、患者さんは喜ばれていました。第1大臼歯は咬合、咀嚼機能における要であり、インプラント補綴によりしっかりとその機能を回復することが重要と思われます。抜歯後、半年などかなり待機して埋入する先生もおられますが、抜歯後の治癒を考え、3か月ほどで埋入すると抜歯後5か月ほどでインプラント補綴も終了し、機能的にも早期に回復できると思われます。

症例ケース02 (2017.10.23 - Data up)
右側下顎第1,2大臼歯の根尖性歯周炎、辺縁性歯周病による歯の温存不可能症例
(60歳代 女性)
STEP.01

右側下顎第1、2大臼歯の動揺ならびに周囲よりの排膿。
右側大臼歯部の動揺と噛んだ時の痛みで十分に咀嚼ができず。食事が苦痛とのことであった。

上下の同時の治療をお話ししたが、ゆっくりとやっていきたいとの希望もあり、まず下顎をインプラントにすることにした。

インプラント補綴後、上顎の歯に痛みなどの症状が出ることも十分にお話しして、まず下からきっちりと治していきたいとのことであった。下顎にインプラント治療を行うことで咀嚼機能の回復ができ、喜んで頂けた。

STEP.02

LANDmarker(iCAT)の画像。右側下顎第2大臼歯(#47)部。
舌側への穿孔が心配な症例。皮質骨があるので大丈夫という意見もあるが、一歩間違えば重篤な事故が起こる可能性がある。

全を期すためにもサージカルガイドが非常に有効である。
以前は、臼歯部はサージカルガイドを使用しにくかったが、最近ではサイドエントリーという横からドリルを入れられるタイプもあり問題なくガイド使用が可能になった。

STEP.03

LANDmarker(iCAT)の画像。右側下顎第1大臼歯(#46)部。
第2代臼歯部と同様、舌側への穿孔が心配である。特にパノラマ画像だけではこのような骨形態の把握は難しいので、CT撮影は必須である。

STEP.04

LANDmarker(iCAT)にワックスアップを取り込み、アクセスホールの位置も確認。
トップダウントリートメントに問題がないことを確認。

STEP.05

LANDmarker的心ガイド(iCAT)を装着した所見、第2大臼歯の場合にはドリルが上顎の歯に当たるなどクリアランスの問題で、ドリルをスリーブにきちんと入れることができない場合がある。このような場合のためにサイドエントリーがあり、有用である。

STEP.06

本症例では、直径4.2mm/長さ8mmのインプラント2本埋入する計画とした。サーキュレーションメスはガイドにキーを入れることで直径3.4で行った。このことにより可動粘膜までの固有歯肉の幅が確保できる。

STEP.07

サーキュレーションメスによって、固有歯肉のインプラント埋入部位に粘膜の開創を行った。可動粘膜までの固有歯肉の幅が確保できている。

STEP.08

的心ガイド(iCAT)を用い、的心パイロットドリル step1 直径3.4mm用(京セラ)でインプラント窩の形成を行う。
的心ガイドドリル 2step 直径3.4mm用(京セラ)で拡大形成。ドリルにリング(矢印)をつける事で、深度調整を行っている。
的心ガイドドリル Step3 直径4.2mm用(京セラ)でインプラント窩最終形成。サイドエントリーでドリリングが行いやすい。ストッパーまできっちりと形成することで深度が確保できる。

STEP.09

インプラント埋入窩形成後、インプラントの埋入を行う。
インプラント埋入サイズ:FINESIA Bone Level HA Tapered type(京セラ)埋入サイズ直径4.2mm/長さ8mm ×2本
インプラント体の埋入:インプラント体がガイドに誘導されながら適切な位置・方向で埋入されているのがわかる。
ストッパーまで確実に入れることで計画通りの埋入深度を得ることができる。

STEP.10

インプラント埋入後の所見。歯肉縁下数ミリの部分でインプラント体が確認できる。

STEP.11

ヒーリングアバットメント装着後の所見。
ヒーリングアバットメント(3mm)による止血効果も期待できる。出血がほとんどないのがわかる。

STEP.12

予定された部位に埋入されている。最終補綴物装着時の確認Dental X-P

STEP.13

最終補綴物装着時の口腔内所見。
右側で噛めなかったことから、治療後噛めるようになったと喜んでいただけた。

STEP.14

最終補綴物装着時の口腔内所見。

症例ケース01 (2017.10.12 - Data up)
右側第2大臼歯欠損となり、歯ぐきを切らない無切開フラップレス術式にてインプラント治療を行った症例
(50歳代 女性)
STEP.01

近心に46番の天然歯があり、手術時にドリリングの起始点が見にくい。また、46番の歯根との距離が近くなるため、フリーハンドでは難しい症例。
加えて骨密度も柔らかめと予想されるため、ドリリングもブレやすく埋入までサージカルガイドを使うことにより、計画した位置への埋入を正確に行うことができる。

STEP.02

LANDmarker(iCAT)にワックスアップを取り込み、アクセスホールの位置も確認。補綴主導のインプラントとしての問題もないことを確認している。
LANDmarker(iCAT)ではワックスアップ部だけの表示を消すこともでき、現在の口腔内の位置も想像しやすい。

STEP.03

サーキュレーションメスにて歯肉に円形の切開した所見。可動粘膜と固有歯肉の距離に注意しながら切開を行うか、サーキュレーションメスで行うかを判断する。丸くシャープに固有歯肉に切開を行ったフラップレス治療。
右側はサーキュレーションメスにて円形に切除された固有粘膜。

STEP.04

Landmark Guide(iCAT)を用い、的心ガイドドリル(京セラ)にてドリリングを行う。
ガイドに沿ってインプラント窩が形成されている。
ドリリング後、粉砕骨を生理食塩水で洗い流すなどの注意も必要になる。

STEP.05

インプラント埋入窩形成後、インプラントの埋入を行う(埋入サイズ直径4.7mm/長さ12mm)。
インプラント体の埋入時には、インプラント体がガイドに誘導されながら適切な位置・方向で埋入されているのがわかる。

STEP.06

左画像:インプラント埋入後の所見。EXではカラー部があるために歯肉縁下数ミリの部分でインプラント体が確認できる。
右画像:ヒーリングアバットメント装着後の所見。ヒーリングアバットメントによる止血効果もあり、出血がほとんどないのがわかる。

STEP.07

左画像:埋入後、パノラマX-Pにて状況の確認を行った。予定された部位に埋入されている。
右画像:最終補綴物装着時の確認Dental X-P

手術時間:9分
手術内容:インプラント埋入術
麻酔:笑気鎮静・モニター下、局所麻酔
STEP.08

最終補綴物装着時の口腔内所見。
本症例では抜歯後、4年ほど放置していたこともあり、十分なクリアランスが取れなかったが、上顎の第2大臼歯の挺出をこれ以上進めないために患者さんと十分に話をしてインプラントを行った。上顎第2大臼歯の補綴などのやり替えは希望しなかったが、安心して噛むことができるようになったと喜んでいただけた症例である。

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