歯がない下顎無歯顎症例

下顎無歯顎症例解説

歯がない無歯顎症例におけるインプラント治療の注意点や特徴をDr.新谷悟が解説します。

診断時において
  • 歯を失った原因が歯周病か虫歯から根尖性歯周炎を併発したものかを確認し、骨の高径や幅など残存骨の形態、骨質などを十分に把握する
  • CT画像と口腔内模型のマッチングにおいても粘膜面でずれを生じやすいため、義歯などにマーカーを付与してCTを取るなど細心の注意を払う
  • 手術時のサージカルガイドの固定をどのようにするか。必要であればピン固定などで対応する
  • 顎提と可動粘膜の関係から切開するか否かを診断の時にもある程度把握しておく
  • All on 4(4本で義歯を固定する)や義歯を2本のインプラントで固定するか、ブリッジタイプや単独歯などの形でインプラント治療をするかによっても、埋入位置、選択すべきインプラントなども変わるので、それらの要素を考慮して診断を行う
手術時において
  • 粘膜切開を行うか否か、顎提、粘膜負担でのサージカルガイドをいかに安定させ、診断のインプラント埋入位置に正確に埋入するかを考えて手術を行う。場合によっては、ガイドによってインプラント窩を形成後、それに沿ってガイドを外すほうが良好な結果を得られる場合もある
  • サージカルガイドの固定のための固定ピン以外にも、ドリリングをしたインプラント窩にピンを立て、より安定した形で次のドリリングを行うなどの工夫も重要になる
  • サイナスリフトやソケットリフトなどの骨造成を同時に行わないといけない症例も多く、技術的にも高度になるため、決して無理をしないようにする
  • 切開を行わないフラップレスの場合には、骨の高径だけではなく近遠心的、唇・頬・口蓋(舌)側的な位置関係が正しいかどうか、周囲に骨があるかどうかを十分に確認しながら行う

こういった点を留意したい。

目次
無歯顎症例
症例ケース01 (2017.11.02 - Data up)
右側小臼歯部から前歯ならびに左側の臼歯部にわたる欠損症例
(60歳代 男性)
STEP.01

下顎前歯ならびに左側臼歯部にインプラント補綴を他院で受けていたが次々にインプラントが抜け落ち、治療は無理といわれて義歯を入れている。残った2本の自分の歯もぐらぐらしてきて、入れ歯で食事ができなくなってしまったということで、どうにかもう一度インプラント治療できないかと当クリニックを受診されました。

右側臼歯部のインプラント補綴も、インプラント体の周囲が吸収していますが、どうにか動揺して脱落するまでは使いたいとのことで温存することにしました。

右側の第1,第2小臼歯(#41,42)は歯周病と根尖性歯周病で動揺しており、保存不可とお話ししました。

抜歯後1か月でインプラント埋入手術、その後2か月で粘膜を再生する手術、そしてその後2か月で最終的な補綴物が入り、インプラントによって噛むことと話すことなどが問題なくできるようになったことを喜んでいただけました。

STEP.02

LANDmarker(iCAT)の画像。多数歯欠損のため、上部構造の形態を考慮しながら埋入位置を検討。

STEP.03

LANDmarker(iCAT)の画像。埋入本数が多いため、全体のバランス・インプラント同士の距離も検討が必要となる。

STEP.04

LANDmarker(iCAT)にワックスアップを取り込み、アクセスホールの位置を確認。上部構造の形態が分からないと適正な埋入方向を見誤りやすい症例。アクセスホールが悪い位置になると舌感が悪くなるため注意が必要。

STEP.05

歯周病とインプラントの脱落症例であるが、皮質骨も含めて、骨はインプラント埋入に対して確保されている。

STEP.06

左側第一大臼歯(#36)、左側第二大臼歯(#37)は骨頂が切り立っているためパノラマ像では骨があるように見えるが、実際には下顎管までの距離が近くなるため注意が必要。

STEP.07

インプラント埋入時の口腔内所見。右側臼歯部にはインプラント補綴がなされている。歯槽提はほとんどなく前医で入れられたインプラントが周囲炎で脱落したため、固有歯肉も瘢痕組織のようになっている。

STEP.08

Landmark Guide マルチガイド(iCAT)をインプラント補綴部位と歯槽提に合わせる形で位置決めをし、2mmドリル用のガイドキーを入れた状態で2mmドリルでドリリングしている。粘膜にドリルの後をつけ、インプラント埋入位置から切開線を設定する目的もある。

STEP.09

2mmのドリルで印記されたインプラント埋入部位のやや舌側よりで歯槽粘膜(瘢痕組織)に切開を加える。骨膜まできっちりと切開することが重要である。

STEP.10

歯槽粘膜の切開を反対側まで伸ばしている。オトガイ孔が歯槽骨の吸収により歯槽頂に存在するので、これには最大限の注意を払うことが重要である。

STEP.11

FINESIA HA Tapered type(京セラ)を以下のごとく埋入する計画とした。

F 3.7X12 #44, F 4.2X12 #43, F 3.7X12 #42, F 3.7X12 #32
F 3.7X14 #33, F 3.4X10 #34, F 3.7X8 #36, F 3.7X8 #37
Landmark Guide マルチガイド(iCAT)を適合させ2mmのドリルキーを装着し3mmのドリルでドリリングを行っており所である。

STEP.12

Landmark Guide マルチガイド(iCAT)を適合させ3mmのドリルキーを装着し3mmのドリルでドリリングを行っている。

STEP.13

Landmark Guide (iCAT)の3mmドリルで形成したインプラント窩に対してFINESIA用のファイナルドリルで最終形成を行う。

このドリルにもストッパーがついており、安心して計画された深さまでのドリリングが可能となる。

STEP.14

インプラント形成窩に対してのインプラント体埋入の所見。フリーハンドで行っているがドリリングされた形成窩洞に沿って挿入されるのでずれることはない。

粘膜を巻き込むことがないように骨膜剥離子で粘膜を避けているのがわかる。この時、粘膜剥離子がインプラント体の表面に触れないようにすることは基本中の基本である。

STEP.15

インプラント体埋入手術の所見。インプラント体が骨内に埋入されている。埋入トルクとしては全く1回法でも問題ないトルクであったが、粘膜の扱いが非常に難しい症例であり2回法を選択した。そのためカバースクリューを装着している。

STEP.16

埋入後、パノラマX-Pにて状況の確認を行った。予定された部位に埋入されている。

手術内容:#44,#43,#42,#32,#33,#34,#36,#37 インプラント埋入術
トルクは50→25N/cm(#44),50→25N/cm(#43),50→30N/cm(#42),
50→35N/cm(#32),50→25N/cm(#33),50→25N/cm (#34),50→25N/cm(#36),50→25N/cm(#37)であった。
麻酔:静脈鎮静・モニター下
局所麻酔:2%キシロカイン(1/80,000Epi) 14.4ml
手術時間:1時間15分
STEP.17

インプラント埋入から2か月後、インプラント周囲に歯槽提の固有歯肉を作成するために粘膜再生の手術を行った。口蓋より口蓋粘膜を移植することも考えたが、患者さんの負担が増えることと広範囲であり口蓋の粘膜をかなり広範囲で切除しないといけなくなることから、吸収性ポリグリコール酸フェルト ネオベール シートタイプ ネオベール(GUNZE)とベリプラスト 血漿分画製剤(生理的組織接着剤) フィブリノゲン加第XIII因子 を用いた再生法を選択した。なお、ペリプラストは血液製剤になるのでその旨、患者さんに説明し、十分な同意を得た上で使用した。

歯槽提の固有歯肉を作成するために粘膜再生手術。ヒーリングアバットメントを装着してネオベールとベリプラスト を付与している。

STEP.18

インプラント周囲に歯槽提の固有歯肉を作成するために粘膜再生手術。口蓋より吸収性ポリグリコール酸フェルト ネオベール シートタイプ ネオベール(GUNZE)を添付するところである。このネオベールシートをべリプラストで固めながら添付するイメージである。

STEP.19

インプラント周囲に歯槽提の固有歯肉を作成するために粘膜再生手術。ベリプラスト 血漿分画製剤(生理的組織接着剤) フィブリノゲン加第XIII因子 を用い、ネオベールシートを骨上に添付しているのがわかる。

STEP.20

歯肉が徐々に造成し、ネオベールを徐々に押し出してくれることで固有歯肉が再生される。

印象用コーピングによる印象採得時とインプラント上部構造の最終補綴を行ったときのパノラマX-P所見。

STEP.21

最終補綴物装着時の口腔内所見

STEP.22

最終補綴物装着時の口腔内所見

もともとの歯周病と前医のインプラント治療の不成功で骨が非常に吸収し、インプラント体の埋入もさることながら、粘膜の取り扱い、特にインプラント周囲への固有粘膜あるいは瘢痕用組織を再生させるのが非常に大きなポイントであったと思われる。上部構造(歯の部分)も歯肉部を含めて作成するため高さが高くなることから工夫が必要であった。

非常に大きな欠損症例であり、かつ地方から飛行機で当クリニックに通っていただきました。上顎も前医で入れたインプラントが脱落するなど問題があり、今後も治療していく予定である。インプラント治療医にとって必要なのは、一生、その方の口にとどまり機能するインプラント治療のために日々、研鑽すべきであり、その自信がなければ安易に行ってはいけないことである。インプラント治療を行った患者さんがその医療施設に来なくなるのは成功してメンテナンスに来ないのではなく、当該医療機関で失敗されたから来ないとこもあることを十分に考えなくてはならない。

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