多数歯欠損症例

下顎多数歯欠損症例解説

下顎多数歯欠損症例におけるインプラント治療の注意点や特徴をDr.新谷悟が解説します。

診断時において
  • 手術時間を最長2時間以内とする。本症例解説では多数歯欠損を3歯以上として解説をしている。サージカルガイドの使用で手術時間は短くなっているが、両側の臼歯にわたる欠損で、片側のインプラント手術を2回に分けて行うのか、一度に行うのか含め、手術時間を考慮して決定する。講演会等で4-5時間かけて静脈鎮静で手術したと自慢する講演を聞いたことがあるが、患者さんの身になっていない最低の治療医としか思えない。
  • 個々のインプラント埋入位置の決定は少数歯欠損と同じであるが、骨の幅や高さ、インプラント体相互の距離、歯根との距離を十分に考慮して埋入位置を決定することが重要である。特に下顎臼歯部で骨吸収が著しい場合には長さの短いショートインプラントを選択することも重要であるが、連結なども考慮し(あくまで単独埋入が良いことに間違いないが)場合によっては、埋入本数を減らしたり、連続した歯牙欠損の場合でブリッジタイプにする。カンチレバーも十分機能することを考慮する。
  • 最終補綴を最重要と考え、骨質、骨幅、高さなども考慮してインプラント埋入位置を決定するが、下顎管との距離、それを避けるためのインプラントの選択、位置、深さ、角度を診断することが重要である。
手術時において
  • 多数歯欠損での手術時間については前述したが、手術に当たってはその時間的な焦りは厳禁である。一つ一つの手技を丁寧に正確に行うことのみが手術時間を守れると考える。
  • 可動歯肉と固有歯肉の所見とインプラント埋入位置を考慮し、切開が必要と考えれば切開を行う。骨造成において必要な場合には減張切開を行う。口腔外科的な基本手術手技を普段から修練することが大切である。
  • 遊離端のケースでは、サージカルガイドのたわみに十分、留意する。特に第2大臼歯部では、ドリルがサージカルガイドに入りにくいことがあり(サイドエントリーもあるがそれでも開口量が少ない患者さんではドリリングに苦渋する場合もある)、そのような場合にサージカルガイドに過度な負担がかかり、たわみを生じることがあるため、十分に注意する。

こういった点を留意したい。

目次
下顎多数歯欠損症例
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症例ケース03 (2017.11.30 - Data up)
左側下顎犬歯(#33)ならびに第2小臼歯(#35)の根尖性歯周病による保存不可と第1大臼歯欠損(#36)抜歯後2か月での待機埋入症例
(50歳代 男性)
STEP.01

左側下顎犬歯ならびに第2小臼歯の咬合痛とブリッジの若干の動揺を主訴に当クリニックを受診した。

第2小臼歯からは排膿があり犬歯も根破折が疑われる所見であった。同2歯を抜歯、第1小臼歯は失活歯ではあるものの温存とした。

第1大臼歯は欠損しており、インプラントによる治療を行う方針とした。

ブリッジの切断を行い、抜歯し、約2か月でCTと口腔内の模型を採得し、インプラント埋入を行い、埋入後2か月で上部構造を装着しインプラント治療とした。なんでもよく噛めると喜んでおられた。

STEP.02

LANDmarker(iCAT)の画像。
補綴主導を考え埋入位置を計画。

STEP.03

LANDmarker(iCAT)による埋入シミュレーション画像。左側下顎犬歯(#33)
狭いスペースへの埋入、抜歯窩で柔らかい骨へとドリルが流されることを考え、サージカルガイドは必須である。

STEP.04

LANDmarker(iCAT)による埋入シミュレーション画像。左側下顎第2小臼歯(#35)
オトガイ孔が近く、埋入確度を誤るとマヒが起きる可能性があり、サージカルガイドを利用すればそのようなリスクを避けられる。

STEP.05

LANDmarker(iCAT)による埋入シミュレーション画像。左側下顎第1大臼歯(#36)

STEP.06

Landmark Guide(iCAT)の的心ガイドを装着した所見。

FINESIA Bone Level HA Tapered type(京セラ)直径3.7長さ10mm(左側下顎第1大臼歯:#36)、直径3.4長さ10mm(左側下顎第2小臼歯:#35)、直径3.4長さ10mm(左側犬歯:#33)を埋入する計画とした。

STEP.07

サーキュレーションメスによって、固有歯肉のインプラント埋入部位の確認を行う。

犬歯部(#33)ならびに第2小臼歯部(#35)では固有粘膜の幅がインプラント周囲に存在するが、第1大臼歯部では十分とは言えないため、同部では粘膜切開を行う方針とした。

STEP.08

犬歯部と第2小臼歯部においてはサーキュレーションメスでの円形の切開になる。サーキュレーションメスを内筒に沿わせて挿入し粘膜、骨膜を確実に切開する。

STEP.09

的心ガイド(iCAT)を用い、的心ガイドドリルにてドリリングする場合は、位置や角度がガイドによって規制され、深度はストッパーにより規制されるため、シミュレーション通りの位置にドリリングができる。

STEP.10

インプラント埋入。ガイドの円筒に沿ってドリル上部の円筒形が沿う形で入ることでインプラントを正確な位置に埋入することができる。一方で埋入トルクはこの摩擦によって、ガイドのない場合とトルク値が異なることもあるので注意する。

STEP.11

左側下顎犬歯ならびに第2小臼歯部(#33,35)のインプラント埋入のためにLandmark Guide(iCAT)の的心ガイドを装着し、的心パイロットドリル3.4mm用(京セラ)でインプラント埋入窩を形成している。

ガイドに沿ってインプラント体が予定された位置に埋入されようとするのがわかる。口腔内の奥で手指によるサージカルガイドの固定がなされていることがわかる。近遠心的にもサージカルガイドが固定されていることが重要である。

STEP.12

左側下顎犬歯、臼歯部に埋入を行い、ヒーリングアバットメントを付けた口腔内所見。出血などはほとんどない。

手術内容:左側下顎犬歯、第2小臼歯、第1大臼歯部(#33,#35,#36)
#33インプラント埋入術:F3.4X10 10N/cm
#35インプラント埋入術:F3.4X10 30N/cm
#36インプラント埋入術:F3.7X10 30N/cm
麻酔:笑気鎮静・モニター下
局所麻酔:2%キシロカイン(1/80,000Epi) 7.2ml
手術時間:32分
STEP.13

上部構造装着時の確認 パノラマ X-P所見。予定された部位に埋入されている。

STEP.14

最終補綴物装着時の口腔内所見。

治療後、食事時によく噛めるようになったと喜んでいただけた。他部位も治したいということもあり、色はA1を希望された。インプラント埋入から上部構造の完成までの期間は、義歯を使われており、義歯を入れなくてよいと嬉しそうに話されていました。機能面も十分に回復でき、きれいな歯が入ってうれしいと患者さんは喜ばれていました。

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