上顎臼歯部少数歯欠損症例

上顎臼歯部少数歯欠損インプラント症例解説

上顎臼歯部少数歯欠損におけるインプラント治療の注意点や特徴をDr.新谷悟が解説します。

診断時において
  • 歯があったときの中心(根分岐部)ではなく、やや近心根寄りに入れると理想的な位置に来ることが多いので、十分にシミュレーションすること
  • 頬側の骨と舌側の骨の高さが異なる症例が多いが、すぐGBRなどの骨造成で対応しようと考えるのではなく骨レベルの低い頬側の骨が十分にある位置まで深く埋入したほうが予知性は高い
  • 可動粘膜が入り込む形で歯槽堤の固有粘膜に入り込んでくる場合があるので、切開の必要性も診断しておく(患者さんに伝えておく)
  • 多くの場合に第2大臼歯が必要かどうかを見極める。などに、注意する
手術時において
  • 予後につながる可動歯肉の状態と、インプラント周囲の固有歯肉の幅の確保を考え必要であれば切開、粘膜骨膜弁を作成する
  • 開口量に気を使い、サイドエントリーなども踏まえて患者さんの負担にならないようにする
  • 頬側の骨レベルを見誤らないように術中インプラント埋入後、インプラント周囲の骨レベルを短針などで十分に確認する

こういった点を留意したい。

目次
上顎臼歯部少数歯欠損インプラント症例
症例ケース02 (2018.08.21 - Data up)

ソケットリフトをどうしても回避していただきたいという要望がある患者さんに対してショートインプラントで対応した症例。

伝えたいポイント

  • ショートインプラントの選択基準
  • 的心ガイドの有用性
  • ソケットリフトかショートインプラントか
左側上顎第1大臼歯(#26)欠損に対してソケットリフトを回避し、ショートインプラントの傾斜埋入で対応した症例
(30歳代 女性)
STEP.01

他院で歯牙破折と根尖性歯周炎を指摘され、抜歯、ブリッジを提案された。ブリッジは、嫌だということで、当クリニックに来院した。

上顎洞までの距離が約8mmと狭く、ソケットリフトによる骨造成が必要であることをお話しした。しかし、上顎洞に骨を入れることがどうしても受け入れられないということで、短いインプラントでどうにか対応をしてほしいという希望があった。

シミュレーションして相談ということになり、シミュレーションを実施した。

インプラント埋入手術を行い、4か月後に上部構造(歯の部分)が装着され咀嚼機能の回復ができ、喜んで頂けた。

STEP.02

LANDmarker(iCAT)にてワックスアップを取り込み、上部構造の位置を確認しながら埋入シミュレーションを実施。既存骨の位置と補綴の位置と考慮し良好なポジションを選択。

●本患者さんの左側第一大臼歯の歯冠は、第2大臼歯に比べても小さく咬合力の負担が比較的少ないことがうかがえる。この要素もショートインプラントで対応することを決める要因であった。

●同様の理由ではあるが歯列不正(叢生)もあり、その点でも、咬合力の負担は少ないと判断した。

STEP.03

LANDmarker(iCAT)による埋入部位のCT画像。インプラントはφ4.7mm/L8.00mmである。

上部構造の位置・骨の形態を考慮して、患者の希望である短いインプラントによるソケットリフトの回避ができると判断した。

●直径5.2mmを選択することも考えたが、第一大臼歯の歯冠の大きさが小さくサブジンジバルプロファイルを考えても直径4.7mmでも十分であること、周囲の骨の骨質を加味して選択した。

●口蓋頬側の幅はあるものの臨在歯との幅はタイトであり、ガイドを用いることが有用と考える。

STEP.04

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を装着している所見。

固有粘膜がサーキュレーションメスで切り取る歯肉の周囲にあることも確認する。

STEP.05

FINESIA HA Bone Level Tapered 直径4.7mm/長さ8mm(京セラ)を計画。サーキュレーションメスにて、インプラント周囲の固有歯肉の幅を確認しながら、歯肉を切開、除去した。

●このような症例で固有歯肉の幅が十分に確保できないことは致命的なインプラント周囲炎を惹起するので十分に留意したい。

STEP.06

的心ドリルのステップについては省略するが通常のごとく、スタートドリルから始めて4本のドリルでインプラント窩を形成した。

STEP.07

インプラントを埋入する。インプラントタイプ及びサイズ:FINESIA HA Bone Level Tapered 直径4.7mm、長さ8mm。トルクは30N/cmであった。

STEP.08

インプラント埋入時のパノラマX-P画像(拡大図)と上部構造(歯の部分)を装着した際の確認デンタルX-P所見。

●ソケットリフトは比較的安全に行える骨造成法の一つであり、まずトラブルになるようなことはないと考える。しかし、患者さんによっては、上顎洞に人工骨などを入れる手術がどうしても受け入れられない方もおられるため、そのような場合にはショートインプラントを応用する。傾斜埋入も考えたが、傾斜埋入で10mmを入れることでどれだけ予知性が向上するかは疑問である。

STEP.09

最終補綴物装着時の口腔内所見。

スクリューリテインの補綴としている。第1大臼歯は、咀嚼機能の要でもあり、その機能回復は重要である。8mmのショートインプラントではあるが、上部構造の装着後、約1年がたっているが問題なく機能している。

症例ケース01 (2017.11.08 - Data up)
根破折による抜歯後待機埋入症例
(30歳代 女性)
STEP.01

食事中、バキッという音とともに右側第一小臼歯部(#14)に痛みを覚え、差し歯が動揺したとのことで、当クリニックに来院。メタルコアの部分から動揺しており、容易に脱落し、残根状態であったために抜歯した。その後、2か月ほどしてインプラント埋入を計画、インプラント治療による審美的、機能的な回復を行った症例です。

STEP.02

LANDmarker(iCAT)にワックスアップを取り込み、アクセスホールの位置も確認。補綴主導のインプラントとして問題ないことを確認している。

STEP.03

LANDmarker(iCAT)の画像。隣在歯と近接しているが、天然歯と1.5mm以上の距離を確保できている。
骨質(参考値)を診ると、抜歯窩ということもあり柔らかいことが想像される。インプラントの長さをL12mmとし、洞底に当てることでバイコルチカルな支持で初期固定を得られるよう計画した。狭いスペース、的確な深度コントロールのためにサージカルガイドは必須である。ただ、フリクション(摩擦)による疑似トルクを感じるので、埋入後のトルク値確認を怠らないようにする。

STEP.04

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を装着したところである。臨在歯とガイドの適合性を確認してきちんと装着できているかどうかを確認する。

STEP.05

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用いて、的心サーキュレーションメス 直径3.7mm用(京セラ)で固有歯肉に丸く切開を行っているところである。ガイドに沿って正確に切開を行うことができる。

STEP.06

サーキュレーションメスで固有歯肉に行った切開により固有歯肉を除去しところである。骨面が観察できる。

STEP.07

FINESIA Bone Level HA Tapered type(京セラ)直径3.7mm/長さ12mmのインプラント体を埋入する計画を立てた。Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用い、的心パイロットドリル step1 直径3.7mm用(京セラ)でインプラント窩の形成を行っている。ガイドを手指できちんと抑えて固定することが重要である。

STEP.08

的心ガイドドリル 2step 直径3.7mm用(京セラ)にて最終形成を行う。
ガイドに沿ってストッパーまでドリリングしている。ドリルとガイドがこすれるような音がしたり、抵抗がある場合には、角度がずれていることが考えられる。スムースにドリリングできることが重要である。

STEP.09

インプラント埋入窩形成後、インプラントの埋入を行う。インプラント体がガイドに誘導されながら適切な位置・方向で埋入される。

STEP.10

サージカルガイドを外してインプラントの埋入位置、深度などの確認を行う。予定された位置、深さに埋入されている。出血もほとんどない。

STEP.11

ヒーリングアバットメントの装着後の所見。止血にも貢献していると思われ、出血はない。

手術内容:右側上顎第一小臼歯(#14) インプラント埋入術
トルク:10N/cm
麻酔:笑気鎮静・モニター下
局所麻酔:2%キシロカイン(1/80,000Epi) 3.2ml
手術時間:9分
STEP.12

最終補綴物装着時の確認Dental X-P。予定された部位に埋入されている。

STEP.13

最終補綴物装着時の口腔内所見

STEP.14

最終補綴物装着時の口腔内所見

患者さんはブリッジではなく、インプラント治療を受けられたことを喜んでおられ、見た目にも良く、歯が戻ってきたと喜んでおられました。手術も短時間で終わり、3か月で上部構造(歯の部分)が入ったことでも満足していただいた。

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